2024/09/30
マーケティングという言葉の定義は曖昧であり、時代の変化や技術の発展とともに、さらに多様化し続けています。「仕事でマーケティングを扱っているけど、このやり方で合っているのだろうか?」「マーケティングの勉強はしているけど、どう使えばいいのか分からない…」そんな悩みを持つ方も少なくないはず。 今回お話を伺ったのは、初代バチェラーとしても知られる久保裕丈さん。 コンサルタントとして、経営者として、苦悩しながらご自身のマーケティング論を導き出してきた久保さんから、マーケティングに携わるすべての方へのメッセージをお届けします。 また、PERSOL MIRAIZでは、久保さんを講師にお招きして少人数制クラスの開講も予定しています。
「マーケティングという言葉や概念は、多くの人にとって捉えどころのないものになってしまっていると思います。情報は溢れているけれど『これが正解』というものがない。だから、みんなトレンドを追いかけたり、枝葉のノウハウを拾い集めるしかない。
例えば、特定のメディアのグロースハックの仕方とか、定量管理の仕方とか、もちろんそれはそれで大事だと思うのですが、本当に重要なことは、もっと根っこの部分にあるはずです。
ただ、マーケティングの本質を学ぼうとしても、なかなか難しいのも現状。世の中にはマーケティング関連の書籍や記事がたくさんあるものの、だいたいが断片的な情報だったり、テーマやフレームワークが古くて現状にマッチしないものだったりします。“マーケティングの名著”と言われる書籍もありますし、そこから学べることも多い。
しかし、これもあくまで古典として捉えたほうがいいでしょう。数十年前の考え方やノウハウを参考にしてミスリードが起きている例も散見されます。知識や論考だけが一人歩きしていて、ユーザーにとっては拠り所がない状態だと思います。
そこで考えたのは、断片的に転がっている情報やノウハウをある程度統合して、マーケティングの全体感を掴めるような講座にできれば価値があるのではないかということ。
今回企画した講座では、まずはマーケティング活動に携わる上での軸となる考え方を身に付けてもらえたらと思っています」
「経営型マーケティング人材とは『マーケティング人材の価値が最大化された状態』だと定義しています。せっかく講座を受講いただくからには、その方が会社のなかで、社会のなかでの価値を高められるものを提供したい。
ただ、誤解してほしくないのは、トレンドに精通していたり、テクニカルな部分に強いことがマーケターの本当の価値ではないということです。
トレンドは常に移り変わりますし、今年有効なスキルが来年には使い物にならなくなっていることもよくある業界です。もっと根本というか、上流に目を向けてほしいと思っています。
マーケティングに携わる人のなかには『自分の役割はサービスやプロダクトの認知度を上げること』だと認識している人も多いですが、それはマーケティング活動においては、どちらかというと下流工程にあたります。
本当にマーケティングを成功させようと思ったら、そもそも自社のサービスやプロダクトが、誰にとってどんな価値があるものなのかを定義できないといけませんし、ときにはサービスやプロダクトのあり方そのものを見直す必要もあります。
ブランディングや経営の視点が不可欠なんです。
裏を返せば、そこまで担える人は非常に希少価値が高い人材だと思いますね」
「遡ってお話ししますが、もともと小学校から大学までずっと理系タイプの人間で、自分は研究者になるものと思っていました。
しかし、大学時代にふと疑問が浮かびました。『自分が盲目的に研究していることは、世の中にどれくらい価値があるんだろう。
そもそも、日本の大学の国際競争力はなぜこんなに低いのか?』と。
そこで、提携していた海外の研究機関を観察してみると、理系の研究者や学生にもMBA(経営学修士)取得者が多いことが分かりました。
学生の研究においてさえ、リソースの最適配置や費用対効果のような考え方が重要視されている。
根本的な意識が違った。
研究したことをちゃんと世の中に役立てるためには、マーケティングや経営的な思考が必要だと気づいたんです。
そこから経営に興味を持ち、新卒でコンサルティング会社に入社しました。
コンサルタントとして働いていた数年間は、さまざまな企業の組織戦略、マーケティング戦略の支援をするなかで、経営やマーケティングのことを広く浅く学べた時期でした。
ただ、自分にとって何より大きな経験だったのは、企業の意思決定の機会に携われたことです。
自分がつくった資料ひとつ、提案ひとつで、企業の運命が左右されてしまう。
とんでもなく重大な責任が伴う毎日を過ごし、相当鍛えられたと思います。
とは言っても、最後の最後、本当に決断を下すのはお客さんである事業会社の人たちなんですよ。
それはコンサルタントの自分には経験できないことでした。
大事なことを自分で決めて、社会を動かしている人たちって、かっこいい。
自分もそっち側に行ってみたい。そう思うようになりました」
「2012年に、仲間と共にミューズコーというファッション通販ブランドを立ち上げました。
この頃、マーケティング業界はテクニカル一辺倒の時代。グロースハックなどの言葉が流行りはじめた頃でもあります。
私自身もそんな世の中の風潮に乗って、とにかくABテストを重ねて費用対効果を上げ、短期的な数字を追いかけていました。
それでも企業としてある程度の成長はできたのですが、3年ほどすると、テクニック頼りの方針にも限界が訪れました。
今の自分の力では、これ以上の事業成長を望めないのではないか。経営者として、マーケターとして、その時点での限界を感じてしまったんです。
『立ち上げて3年の会社を17億円で売却』。世間的には成功談のように語られることが多いですが、実際のところ、自分としては悔しさが残る結果になりました。
ミューズコーを経営していた3年間、ずっと思い悩んでいたのは『どうすればこのブランドをもっと知ってもらえるのだろう、もっと好きになってもらえるのだろう』ということ。
自分なりに、あらゆる方法を試みました。
しかし、世の中に広まっているマーケティングやブランディングのフレームワークを使ってみても、何も役に立たず、一向に有益な視座を得られなかった。
結局、答えは出ないまま売却を決断。その後も悩み続けて、学び続けて、断片的な情報を少しずつ繋ぎ合わせていきました。
そうして、抱えてきた悩みに対する答えが、なんとなく見えてきたかもしれないというタイミングで、現在運営しているCLAS(クラス)というサービスをはじめました」
「テクニカル偏重でとにかく数を打つ方針だったミューズコー時代と違い、自社のコアバリューをしっかり定めた上で明確なターゲティングを行うことからはじめたのがCLASです。
思えばミューズコー時代は、足場が不安定な階段をスピード重視で駆け上がっていたイメージでしたが、CLASでは、より高い場所へ到達するための土台づくりから取り組んだことが、事業伸長の要因になったと思います。
CLASがメインターゲットにしているのは、人生の変化が早い人たち。例えば、イメージしやすいのはベンチャーやスタートアップに勤める人たちでしょう。昇給も早ければ転職も早い。時代の流れに敏感で、ライフスタイルが変わるペースも早い。
そういう軽やかな生き方をする人たちが、より軽やかに暮らすためのサービスがCLAS。家具や家電などの、大きくて重くて高価な物を『所有する』のではなく、『気分に合わせて自由に選べる』時代へ。
私たちは、そんな新しい価値観を世の中に広めていきたいと思っています。
たまに聞かれるんです。『CLASもいずれ売却するんでしょ?』と。
でも、それはまったく考えていません。私たちの目標は売却ではなく、新しい社会インフラをつくること。
大きくて重たいものを、地球上でもっとも自由で簡単に扱える、誰にとってもなくてはならないサービスをつくり上げたい。
だからこそ、自社で物流の仕組みを整えるなど、手間のかかる土台づくりも長期的な視点で行ってきました」
「まず、私がなぜバチェラーに出演しようと思ったのか。恋愛的なことを抜きにして言えば、世界で初めてのことをやってみたかったんです。
ミューズコーで手がけていたファッション通販事業は、業界的に3番手、4番手くらいの後追いビジネスでした。だから、自分が新しいものを生み出しているという実感は得られなかった。
バチェラーはもともと海外の番組ですが、それをそのまま持ち込んでも、日本では受け入れられなかったでしょう。日本の価値観や文化の中でヒットさせるためには、まったく新しいものをつくる必要があった。
『まだ世の中で誰もやっていないこと』に挑戦できるのが、何よりの魅力でした。
バチェラーに出演して一番変わったことは、自分自身がパブリックな存在になったということです。
それは私にとっていいプレッシャーになっています。『あいつ、あんな番組に出てるのに、しょうもない商売やってるな』なんて思われたら、親にも兄弟にも申し訳が立ちません。
家族にも、世の中にも誇れる自分でないといけない。事業を行う上で、本当に社会のためになることをしようという気持ちが強くなりました。
また『正しいことをやり続けよう』という意識があると、ハードシングスにぶつかったときにも自信を失わず、前向きでいられるんです」
「講座には、何かしらマーケティング活動に関わっている方に広くご参加いただいきたいと思っています。
マーケティングの部署に所属している人に限らず、プロダクト開発に携わっているとか、サービスのUI/UXについて考えないといけないとか、企業の広報を担当しているとか。
マーケティングやブランディングの文脈で、少なからず悩みを持っている人には、お伝えできることがあるんじゃないかなと。
今回の講座で扱う考え方やフレームワークは、マスターすれば企業のCMO(最高マーケティング責任者)や、プロダクトの責任者をすぐに担えてしまうようなものだと思います。
もちろん、一度の講座ですべてをマスターすることはできないので、受講後も、仕事のなかでおさらいや実践を続けていってほしいですね。
仮に、受講いただく方が企業のSEO担当者や、SNSの運用担当者なら、PV数やCV数を増やすミッションを担っていると思いますが、自分の職務領域の捉え方を広げてみてほしい。
つまり、単なる効果改善に従事するのではなく、自社のサービスやプロダクトのあり方を見つめ、世の中との接点を探し、自分たちがどんな価値を提供できるのかを、経営者視点、CMO視点で考えてみてほしいんです。
一番やってはいけないのは、『どうせ製品のことには口出しできないから』『もう枠組みは決まってしまっているから』と線を引いて、可能性を狭めてしまうことです。
自分自身の立場を数段上げて物事を考え、“視座の上下”を行き来できるようになる。それが今回の講座で目指す『経営型マーケティング人材』です」
「これはもうズバリ、主体性という言葉に尽きると思います。
マーケティング活動って、プロダクトやサービスそのもののあり方を決めるとか、どう転ぶか分からない経営判断を下すとか、とんでもなく重たい決断を迫られる仕事です。
あまりよくない例としてよく見受けられるのは、そうした大事な意思決定を、広告やマーケティングの代理店に丸投げしてしまうパターンですね。
そういうときは責任の所在が曖昧になってリスクヘッジが優先され、結局いい仕事はできません。
本当は、自分で決断しなくちゃならない。死ぬほど脳みそに汗をかきまくって、怖さに震えながら、それでも決めていかねばならない。
それがマーケティング活動というものだと、私は思うんです。
たとえイチ担当者だとしても、企業の重要な意思決定を、他人事ではなく、ちゃんと自分事として真剣に考えられる。そんな人こそ、どんな企業からも求められる価値の高い人材だと断言できます。
そういう意味では、何かを決断する機会を増やすことが、経営型マーケティング人材への近道と言えるかもしれませんね」
さまざまなシーンでマーケティングに携わる方が、ご自身の介在価値を最大化していく。
久保さんに講師を担当いただく少人数制クラスでは、そのきっかけづくりができればと思っています。
もし受講を迷ったら、思い切って決断の一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
さん
株式会社クラス 代表取締役社長
くぼ・ひろたけ 東京大学、同大学院を経て、2007年に外資系コンサルティング会社であるA.T.カーニーに新卒入社。2012年、ファッション通販サイト『ミューズコー(MUSE & Co.)』を立ち上げ、2015年には同社を17億円超で株式会社MIXIに売却。その後は個人で数十社の企業顧問を務め、2017年に恋愛リアリティー番組『バチェラー・ジャパン』の初代バチェラーを務める。現在は、個人・法人向けに家具と家電のレンタル・サブスク「CLAS(クラス)」を展開する、株式会社クラスの代表取締役社長。
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