2024/03/28
IT人材に求められるスキルの指標として、ITSS(ITスキル標準)があります。IT業界の職種を11種類に分類し、ITスキル習得におすすめの資格などがまとめられています。この記事では、ITスキルの重要性や、ITSSについて詳しく解説します。
昨今、IT業界が扱う領域は幅広くなってきています。ハードウェアやソフトウェアといった「製品」の販売から、課題解決のためのソリューションやビジネスの戦略を提案する「サービス」の提供まで、価値提供の形はさまざまです。また、多様なサービスが提供されていくなかで、顧客のニーズも多角化しています。
そのため、IT業界ではより高度な専門性を持つ人材の必要性が高まっており、企業はIT人材の育成に注力し始めています。加えて現代では、IoTやビッグデータ、AIといったテクノロジーの発展を受け、IT業界の成長が見込まれていることもあり、ITスキルを身に付けることで、キャリアの選択肢が広がる可能性が高いでしょう。
ITスキルを向上させるうえで知っておきたいのがITSS(ITスキル標準)です。この記事では、ITSS(ITスキル標準)の概要や、ITスキルを習得するためにおすすめの資格についてご紹介します。
また、ITスキルに限らず、社会人のスキル獲得や学び直しという点でリスキリングやリカレント教育への注目が高まっています。以下の記事で詳しく紹介しているので、併せて参考にしてみてください。
ITSSとは、経済産業省によって2002年12月に公表された、IT業界における人材のスキル指標を示したものです。ITSSは「IT Skill Standard」の略で、「ITスキル標準」とも呼ばれています。ITSSは、さらなる普及を目的として、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)がITスキル標準センターを設立し、改訂版のITSSを公表しています。
ITSSではIT領域における11の職種を、全部で35の専門分野に分類したうえで、能力に応じて7段階のレベルを設定しています。そのため、ITSSによって自分のレベルや保有スキルを客観視できるうえ、次に目指すレベルや伸ばすべきスキルを明確にすることができます。
ITSSではさまざまなITスキルが挙げられています。IT業界というと、エンジニアリングやプログラミングといった技術的なスキルをイメージする方が多いと思いますが、コミュニケーションスキルやマネジメントスキルといったソフトスキルも重要とされています。
以下では、ITSSのレベルや職種分類について詳しく見ていきます。
ITSSではITスキルの習得レベルを、大きく7段階のレベルに分けています。以下では各レベルがどの段階なのかを見ていきましょう。
レベル1はエントリーレベルで、ITに関わる業務の未経験者や新入社員が該当します。
【ITSSにおける定義】
情報技術に携わる者に最低限必要な基礎知識を有する。スキル開発においては、自らのキャリアパス実現に向けて積極的なスキルの研鑽が求められる。
レベル1では、専門性が高い知識を深く習得するよりも、ITに関連する基礎知識を幅広く習得していることが求められます。また上司の指導の下ならば、担当する作業を実施できる人がこのレベルにあたります。
レベル2は、一部であれば作業を独立して行えるレベルです。
【ITSSにおける定義】
上位者の指導の下に、要求された作業を担当する。プロフェッショナルとなるために必要な基本的知識・技能を有する。スキル開発においては、自らのキャリアパス実現に向けて積極的なスキルの研鑽が求められる。
レベル2の目安としては、IPAの基本情報技術者試験に合格していることが挙げられています。基本情報技術者試験は、知識と技能の両方を問う試験で、合格することでレベル2に求められる必要最低限のスキルが身に付いていると見なされます。
レベル3は、任された業務を独力で行うことができる人材です。
【ITSSにおける定義】
要求された作業を全て独力で遂行する。スキルの専門分野確立を目指し、プロフェッショナルとなるために必要な応用的知識・技能を有する。スキル開発においても自らのスキルの研鑽を継続することが求められる。
レベル3から、徐々に専門性が必要とされます。また、レベル1からレベル3においては、指導力やリーダーシップといったパーソナルスキルはあまり求められておらず、チームメンバーとしての業務遂行能力の有無が重要な指標です。
レベル3の目安は、応用情報技術者試験に合格していることです。ITを活用した製品やサービスを作るのに必要な応用知識や技能の有無が問われます。
レベル4は、専門領域が確立し実務において課題の発見と解決をしながら、リーダーとしてメンバーを育成することができるレベルで、高度IT人材と呼べるでしょう。
【ITSSにおける定義】
プロフェッショナルとしてスキルの専門分野が確立し、自らのスキルを活用することによって、独力で業務上の課題の発見と解決をリードするレベル。社内において、プロフェッショナルとして求められる経験の知識化とその応用(後進育成)に貢献しており、ハイレベルのプレーヤとして認められる。スキル開発においても自らのスキルの研鑽を継続することが求められる。
ITストラテジスト試験やシステムアーキテクト試験といった、それぞれの職種における高度試験に合格すると、レベル4の最低限の知識を有すると見なされます。ただし、レベル4からは、資格に合格しているだけでなく、ビジネスの現場で能力を総合的に発揮し、プロフェッショナルとしてメンバーの育成や技術の発展に貢献するといった実績が求められます。そのため「達成度指標」による評価が不可欠になります。
レベル5 は、高度IT人材のなかでも、専門スキルを活かして社内に貢献できる人材です。
【ITSSにおける定義】
プロフェッショナルとしてスキルの専門分野が確立し、社内においてテクノロジやメソドロジ、ビジネスを創造しリードするレベル。社内において、プロフェッショナルとして自他共に経験と実績を有しており、企業内のハイエンドプレーヤとして認められる。
レベル6は、高度IT人材のなかでも、企業内外問わずハイエンドプレーヤとして認められる人材です。
【ITSSにおける定義】
プロフェッショナルとしてスキルの専門分野が確立し、社内外において、 テクノロジやメソドロジ、ビジネスを創造しリードするレベル。社内だけでなく市場においても、プロフェッショナルとして経験と実績を有しており、 国内のハイエンドプレーヤとして認められる。
レベル6に達すると、国内トップレベルであると見なされます。
レベル7は、IT人材のなかでも最もレベルの高い人材であり、IT業界をリードすることが求められます。
【ITSSにおける定義】
プロフェッショナルとしてスキルの専門分野が確立し、社内外において、テクノロジやメソドロジ、ビジネスを創造し、リードするレベル。市場全体から見ても、先進的なサービスの開拓や市場化をリードした経験と実績を有しており、世界で通用するプレーヤとして認められる。
レベル7に達すると、世界で通用するレベルであると見なされます。
ここからはITSSによって分類されている11の職種がどのような業務内容なのか、どのようなスキルが求められるのか、それぞれ解説していきます。自分のしたい仕事ができる職種や、習得するべきスキルを把握するのに役立ててくださいね。
マーケティングは、顧客のニーズを捉えるために、市場の動向や製品・サービスの分析や、新規事業・新規サービスの計画、営業戦略や資金計画の立案・提案などをする職種です。
ITSSにおいて、マーケティングは下記3つの専門分野に分類されます。
ITSSにおけるマーケティング職の共通スキルとしては、下記が挙げられます。
セールスは、顧客の経営方針を確認し、その実現に向けた課題解決策の提案や、製品・サービスの提案を行います。また顧客満足度を高めるために、顧客との良好な関係を築くこともセールスの大切な仕事です。
ITSSにおいて、セールスは下記3つの専門分野に分類されます。
ITSSにおけるセールスの共通スキルとしては、下記が挙げられます。
コンサルタントは、顧客のビジネス戦略やIT戦略の策定に対する助言や提言を通して、顧客の課題解決やIT投資の経営判断をサポートします。提言がもたらす効果や価値、顧客満足度、実現可能性などに責任を持ちます。
ITSSにおいて、コンサルタントは下記2つの専門分野に分類されます。
ITSSにおけるコンサルタントの共通スキルとしては、下記が挙げられます。
ITアーキテクトは、ハードウェアやソフトウェアの技術を活用し、顧客のIT上の課題を解決するためのITシステムの全体像や構造、運用方法を構築する職業です。システム全体を設計する「システムアーキテクチャ」や、アプリの設計を専門に行う、「アプリケーションアーキテクチャ」などがあります。
ITSSにおいて、ITアーキテクトは下記3つの専門職に分類されます。
ITSSにおけるITアーキテクトの共通スキルとしては、下記が挙げられます。
ITスペシャリストは、ハードウェアやソフトウェアに関する専門的な技術・知識を用いて、ITシステムの計画や設計、運用などを行う職業です。ITアーキテクトと比較すると、より専門性が高い職業で、IPAが実施している資格取得が必要です。
ITSSにおいて、ITスペシャリストは下記6つの専門分野に分類されます。
ITSSにおけるITアーキテクトの共通スキルとしては、下記が挙げられます。
プロジェクトマネジメントは、プロジェクトを成功させるために、計画を立て、人的資本や進捗、品質やコストなどを管理する職業です。プロジェクトマネジメントには、進捗管理や品質管理などを行うためのマネジメントスキルや、プロジェクトメンバーとの良好な関係を築くためのコミュニケーション力などが求められます。
ITSSにおいて、プロジェクトマネジメントは下記4つの専門分野に分類されます。
ITSSにおけるプロジェクトマネジメントの共通スキルとしては、下記が挙げられます。
アプリケーションスペシャリストは、業務上の課題を解決するために、アプリケーションを設計、開発、構築したり、テストをして実際に導入したり、保守を行ったりする技術者のことです。
ITSSにおいて、アプリケーションスペシャリストは下記2つの専門分野に分類されます。
ITSSにおけるアプリケーションスペシャリストの共通スキルとしては、下記が挙げられます。
ソフトウェアデベロップメントは、ソフトウェアエンジニアリング技術を活用し、顧客のニーズに応えるソフトウェア製品を設計、計画、開発することが主な仕事です。開発したソフトウェア製品の機能性や信頼性等に責任を持ちます。
ITSSにおいて、ソフトウェアデベロップメントは下記3つの専門分野に分類されます。
ITSSにおけるソフトウェアデベロップメントの共通スキルとしては、下記が挙げられます。
カスタマサービスは、ハードウェアやソフトウェアに関する専門技術を用いて、顧客の環境に最適なハードウェア、ソフトウェアの導入やカスタマイズ、修理、サポートを実施する職業です。
ITSSにおいて、カスタマサービスは下記3つの専門分野に分類されます。
ITSSにおけるカスタマサービスの共通スキルとしては、下記が挙げられます。
ITサービスマネジメントは、システム全体の安定した稼働を目指し、システムの稼働情報を収集、分析し、システムの運用を管理する職業です。
ITSSにおいて、ITサービスマネジメントは下記4つの専門分野に分類されます。
ITSSにおけるITサービスマネジメントの共通スキルとしては、下記が挙げられます。
エデュケーションは、担当分野の専門技術をもとに、研修カリキュラムのニーズ分析、設計、開発、運営、評価を実施するのが主な仕事です。
ITSSにおいて、エデュケーション職は下記2つの専門分野に分類されます。
ITSSにおけるエデュケーションの共通スキルとしては、下記が挙げられます。
ITSS+(プラス)は、クラウドやデータアナリティクス、IoT、AI活用の本格化などを背景に、デジタル人材の育成に向けた“学び直し”の指針として策定されました。ITSS+では「データサイエンス領域」「アジャイル領域」「IoTソリューション領域」「セキュリティ領域」の4つの領域が策定されています。
データサイエンスとは、統計学や数学、プログラミングなどを利用して、大量データを分析し、その分析結果を活用するというアプローチです。データサイエンス領域では、分析の過程で行われるタスクやそれに必要なスキルなどがまとめられています。
アジャイルとは、「素早い」「機敏な」という意味で、ビジネスやIT分野においては、社会や顧客のニーズの変化に素早く適応していく能力を指します。アジャイル領域では、アジャイルにふるまうことの必要性や、システムやソフトウェアの開発手法の1つであるアジャイル開発などについてまとめられており、アジャイル開発に必要な知識や求められるスキルを知ることができます。
IoTソリューションとは、企業の抱える課題や問題を解決に向けたIoT(Internet of Things)のシステムやサービスのことです。IoTソリューション領域では、IoTソリューションの開発のために学ぶべき内容の指針や、IoTソリューション領域に求められるロール(役割)、タスクの概要などについてまとめられています。
セキュリティ領域では、企業のセキュリティ体制の構築、セキュリティ人材の育成を目的として、セキュリティ対策に必要な関連業務に関する知識やスキルの概要がまとめられています。ビジネス部門や、管理部門などのセキュリティ以外の業務を生業とする人もセキュリティ知識やスキルの習得を見込むことができ、“学び直し”の指針としても活用できます。
この記事では、ITSS(ITスキル標準)やITSS+(プラス)について詳しく解説しました。ITSSは職種やレベルごとに必要なスキル項目が整理されており、自分の足りないスキルを明確にしたり、なりたい職業にどのスキルが必要かを把握したりすることができます。今の自分とITSSを照らし合わせて、自分のスキルを客観視してみてくださいね。
そのうえで、さらに活躍するためにスキルアップに取り組んだり、ほかになりたい職種があればリスキリングに取り組んでキャリアチェンジに挑戦するのもおすすめです。ぜひこの記事を参考に、自分のキャリアを考えてみてください。
『PERSOL MIRAIZ』は、はたらくすべての人が利用できる無料のリスキリングサービスです。本来は高額なスキルの学習やキャリアカウンセリングを、誰でも気軽に始められます。
さん
一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事 チーフ・リスキリング・オフィサー / SkyHive Technologies 日本代表
早稲田大学政治経済学部卒業後、1995年に富士銀行(現みずほ銀行)入行。2002年、グローバル人材育成を行うスタートアップをNYにて起業。2011年、米国の社会起業家支援NPOアショカの日本法人設立に尽力。2021年、日本初のリスキリングに特化した非営利団体、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブを設立。日本全国にリスキリングの成果をもたらすべく、政府、自治体向けの政策提言および企業向けのリスキリング導入支援を行う。著書『自分のスキルをアップデートし続ける「リスキリング」』(日本能率協会マネジメントセンター)は「読者が選ぶビジネス書グランプリ2023」イノベーター部門賞を受賞。2023年9月に続編『新しいスキルで自分の未来を創る「リスキリング実践編」』を上梓。
SNS・メディア
ハッシュタグから記事を探す
カテゴリから記事を探す
トップランナーおすすめの良書
トップランナーが見た動画
インタビュー・対談
PERSOL MIRAIZのリスキリングコンテンツ
トップランナーと学ぶ・作る・出会う - あなたのキャリアを前進させる無料クラスとイベント
トップランナーから、仕事に直結するスキルを学ぶ
トップランナーのマインドや学習方法を知り、キャリアを成長させる