2024/02/28
リスキリングとは、今の仕事とは異なる領域や職務のスキルを付け直すこと、学び直すことを指す言葉です。昨今、企業が主導するリスキリングだけでなく、個人が自らの意思で取り組むリスキリングにも注目が集まっています。リスキリングとアップスキリング、リスキリングとリカレント教育の違いや、リスキリングのメリットを解説します。
リスキリングとは、新しい業務や職業に就くために、今の仕事とは異なる領域や職種のスキルを身に付け直すことです。『自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング』(後藤 宗明著、/日本能率協会マネジメントセンター 、2022/9/30)では、「リスキリングとは、新しいことを学び、新しいスキルを身につけ実践し、そして新しい業務や職業に就くこと」と定義されています。
欧米では、デジタル化が進むなかで技術的失業(テクノロジーの導入によりオートメーション化が加速し、人間の雇用が失われる社会的課題)を防ぐための解決策としてリスキリングが浸透した背景があります。そのため、リスキリングをデジタル分野の職業に就くためのスキル獲得と捉え、DX時代の企業の人材戦略といった文脈でリスキリングが語られる場合が多くあります。
しかし自社にリスキリング環境のない方たちを含め、昨今では、個人が自らの意思で取り組むリスキリングへの注目も高まっています。
今回は、主に働く個人に向けて、リスキリングと似た用語との違いや、リスキリングが注目される背景、リスキリングのメリットを解説します。
リスキリングは、アップスキリングやリカレント教育と混合されやすい言葉です。それぞれとの違いを解説します。
アップスキリングとは、「職種や仕事の領域は同じまま、今持っているスキルを向上させること」を指します。一方、リスキリングは「今の仕事とは異なる領域や職種のスキルを新たに身に付けること」です。例を挙げると、マーケティング担当者がデータ分析の精度を上げるためにAIやビッグデータについてさらに学ぶことはアップスキリングに該当し、この担当者が、ITエンジニアに必要なプログラミングスキルを学ぶ場合はリスキリングといえるでしょう。
リカレント教育は「働く→学ぶ→働く」という就労と学びを交互に繰り返す学習の在り方のことです。総務省によると、「リカレント教育は、就職してからも、生涯にわたって教育と他の諸活動(労働、余暇など)を交互に行うといった概念」とされています。※1
リカレント教育は、個人の関心があることを学び直すこと自体が目的のため、仕事と関係がない学びもリカレント教育に含まれます。一方、リスキリングは、これからの未来を見据えて新しい業務や職業に就くことを目的とし、仕事に直結する学びやスキル獲得を指します。
※1 出典:情報通信白書(平成30年度版)(総務省)
リスキリングはなぜ注目されているのでしょうか?注目される背景を知ってリスキリングについての理解を深めましょう。ここでは、第4次産業革命、DX推進、職業人生の長期化の3つの背景をご紹介します。
第4次産業革命とは、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、ビッグデータの活用によりもたらされる技術革新を指します。これによって、従来人間が行っていた労働がAIやロボットに代替されることが予想されます。そうすると、技術的失業と呼ばれる、テクノロジーの導入によりオートメーション化が加速し、人間の雇用が失われる社会的課題が深刻化します。
実際、2020年1月のダボス会議(世界経済フォーラムの年次総会)においては、「第4次産業革命によって数年で8,000万件もの仕事が消失する。しかし、その一方で9,700万件もの新たな仕事が生まれる」という予想がされました。
また、世界経済フォーラムによる最新のレポート「仕事の未来レポート2023」では、「2027年までに約23%の仕事が変化し、6,900万件の新たな仕事が創出、8,300万件の仕事が失われる」と予測されています。※2
6,900万件もの新しい仕事が生まれるとはいえ、雇用が失われる8,300万件からそのまま移行できるとは限りません。つまり、今後必要とされる職種やスキルが物すごいスピードで変化するなかで、成長産業に移行するべく、リスキリングの重要性が高まっているといえるでしょう。
※2 出典:仕事の未来レポート2023(The Future of Jobs Report 2023)(The World Economic Forum)
DXとは、企業がデータやデジタル技術を活用して業務プロセスやサービス、ビジネスモデルそのものを変革するとともに、組織や企業文化も改革し、競争上での優位性を確立することをいいます。
日本でもDXの推進が浸透する一方、DX推進を担える人材の不足が課題となっています。DX人材の採用は売り手市場で企業間の競争が激しく、採用の難易度も高いのが現状です。そのため、DX人材を自社で育成するべく、人材戦略としてリスキリングを導入し、既存社員にデジタル領域のスキルを新たに身に付けさせようとする企業が増えています。
人生100年時代と呼ばれるほど平均寿命が伸びているのに加え、日本では少子高齢化による労働人口減少を解消するために定年を延長する動きがあります。つまり、人生において働く時間がこの先ますます長くなるのです。
しかし、生涯で働く時間が長くなるにもかかわらず、先述した第4次産業革命により今ある仕事がこの先もあり続けるか分からない未来が予測されています。そのなかで、これからも職業で価値創出し続けるために必要なスキルを身に付けることへの重要性が高まり、リスキリングに対する関心も高まっています。
個人にとってのリスキリングのメリットはズバリ、キャリアを考える上で、将来の選択肢が増えることです。新しいスキルを身に付けることで、社内での昇進や昇給、ジョブチェンジ、あるいは転職が成功する可能性も見込めます。
新しいスキルを獲得することは、所属する会社での昇進や昇給、社内異動によるキャリアチェンジの可能性が見込めます。活躍の場が増える可能性があることは、個人にとって大きなメリットといえるでしょう。
本来は企業が将来必要となるスキルを具体的に提示することが理想ですが、そういった段階にない企業で働く方々については、会社が将来必要とするのはどのようなスキルを持った人材なのかを逆算してリスキリングに取り組むことも重要です。
多くの企業で需要が高いとされるスキルを身に付ければ、自身の市場価値を高めることにつながります。たとえば、前述したDX人材は需要が高く、多くの企業が採用を強化しています。
経済産業省「我が国におけるIT人材の動向」(2021)では、「優秀なデジタル人材の新卒・中途採用を行う際に、通常よりも高い報酬水準を設定する例がみられるようになっている」という記載もあり、その傾向は今後さらに増すでしょう。※3
※3 出典:我が国におけるIT人材の動向(経済産業省)
ここまでリスキリングの個人視点でのメリットを紹介しましたが、そこには働き方や雇用制度・人事制度の変化が背景にあります。
DX推進や働き方改革の推進によって、企業は「時間当たりの労働生産性」を重視するようになりました。つまり、働く時間の長さではなく、時間当たりの成果で評価されるということです。その結果、「成果主義」を強める企業も増えています。これまでの日本で一般的だった終身雇用制度や年功序列賃金のもと、勤続年数や年齢に伴って給与が上がるという働き方ではなくなってきているのです。
だからこそ、個人自ら新しいスキルや知識を習得することの意義が高まっています。リスキリングに取り組むことで、昇進や昇給、新しい業界・職種へのチャレンジなど、キャリアの可能性が広がるでしょう。
現在、企業が従業員に対して必要なスキルや知識、技術を社員に再教育する取り組みが増えています。ここでは、リスキリングの企業視点でのメリットをご紹介します。
経済産業省によると、IT人材の需要と共有のギャップから2030年までのIT人材の不足数を推計すると、将来的に40~80万人の規模で不足が生じる懸念があることが試算されています。※4 不足するDX人材を外部から採用する難易度は、今後ますます高まるでしょう。
企業がリスキリングを導入し、今いる社員に必要なスキルを新しく身に付けてもらうことは、人材不足の解決はもちろん、採用コストの削減にもつながります。
※4 出典:IT人材育成の状況等について(経済産業省)
リスキリングの機会を企業が用意し、新しいスキルや知識を身に付けるサポートをすることで、企業と従業員の関係性はよりよいものになるでしょう。社員のエンゲージメントが向上すると、仕事に対する意欲が高まり、生産性の向上も期待できます。また、従業員の定着には従業員エンゲージメントの向上が大切だといわれており、離職率の抑制も期待できるでしょう。
ここまで、リスキリングについて理解を深めながら、そのメリットを紹介しました。リスキリングはキャリアを切り開くことにつながり、働く個人にとってポジティブな影響があることは理解いただけたかと思います。
では、どのようなスキルや知識を身に付けるべきでしょうか?リスキリングは、単なる学び直しではありません。リスキリングは、これからの未来を見据えて必要なスキルを身に付けることに重きが置かれます。今後必要性が高まるスキルの数や種類は多く、自身が獲得すべきスキルを見極めることも重要です。
ここからは、各機関が発表する、重要視されるスキルを紹介します。今の自分に足りないスキルは何か客観視してみたり、自分が望むキャリアとも照らし合わせたりして、身に付けるスキルを見極める参考にしてみてくださいね。
世界経済フォーラムより発行された「Future of Jobs Report 2023」では今後5年間で仕事とスキルがどのように進化するかを調査し、未来の仕事に必要なスキルを分析しています。
レポートによると、2023年~2027年の労働者にとって最も重要なスキルは、分析的思考と創造的思考とされています。
※出典:The Future of Jobs Report 2023(World Economic Forum)
DX人材の役割や職種、習得すべき知識・スキルは、経済産業省「DX推進スキル標準」の「人材類型の定義」に示されています。リスキリング=DX教育ではありませんが、DX推進が加速するなかで、個人が新しく身に付けるスキルとしては有効だといえます。ぜひ参考にしてみてください。
『PERSOL MIRAIZ』は、はたらくすべての人が利用できる無料のリスキリングサービスです。本来は高額なスキルの学習やキャリアカウンセリングを、誰でも気軽に始められます。
さん
一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事 チーフ・リスキリング・オフィサー / SkyHive Technologies 日本代表
早稲田大学政治経済学部卒業後、1995年に富士銀行(現みずほ銀行)入行。2002年、グローバル人材育成を行うスタートアップをNYにて起業。2011年、米国の社会起業家支援NPOアショカの日本法人設立に尽力。2021年、日本初のリスキリングに特化した非営利団体、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブを設立。日本全国にリスキリングの成果をもたらすべく、政府、自治体向けの政策提言および企業向けのリスキリング導入支援を行う。著書『自分のスキルをアップデートし続ける「リスキリング」』(日本能率協会マネジメントセンター)は「読者が選ぶビジネス書グランプリ2023」イノベーター部門賞を受賞。2023年9月に続編『新しいスキルで自分の未来を創る「リスキリング実践編」』を上梓。
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リスキリングとリカレント教育の違いとは?それぞれの言葉の定義や背景についても解説
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