2024/02/28

リスキリングとリカレント教育の違いとは?言葉の意味や背景についても解説

はたらくを考えるヒント
#リスキリング#キャリア形成

リスキリングとリカレント教育は、社会人の「学び」「学習」という大きな視点では共通していますが、それぞれ定義や注目され始めた背景は異なります。今回は、リスキリングとリカレント教育、それぞれの定義を明確にしながら、違いについて解説します。


目次

【一覧表】リスキリングとリカレント教育の違い

リスキリングとリカレント教育は、社会人の「学び」「学習」という大きな視点では共通していますが、それぞれの定義や注目され始めた背景に違いがあります。 

 比較項目

リスキリング

リカレント教育

定義

新しい業務や職業に就くために、スキルを身に付けること

社会に出た後も、就労と学びを繰り返す学習の在り方

背景

第4次産業革命による技術的失業

人生100年時代、ライフスタイルの変化

学ぶ内容

仕事に必要なスキル

個人の関心があること

目的

新しい業務や職業に就くこと

学び直し

背景の違い

リスキリングは、第4次産業革命による仕事の変化を背景に、技術的失業(技術革新によってAIやロボットが進化し、人間の雇用が失われる社会的課題)への解決策として注目度を上げました。対してリカレント教育が注目されたきっかけは、人生100年時代の生き方、ライフスタイルの変化です。リスキリングもリカレント教育も、大きくは「時代の変化」のなかで生まれた概念ではあるものの、その発端は異なるのです。

学ぶ内容の違い

 リスキリングは、これからの未来を見据えて、仕事に必要なスキルを身に付けることに重きを置きます。一方、リカレント教育の学びは「必要なスキル」に限定されません。学ぶ内容は個人の関心にもとづき自由に実施します。

目的の違い

 リカレント教育は、個人の関心がある分野を学ぶこと自体が目的である一方、リスキリングは新しい業務や職業に就くことが目的です。従って、リカレント教育は仕事と関連がない学びも含まれるのに対し、リスキリングは基本的に仕事に直結する学びやスキルの獲得を指します。

望遠鏡を覗くビジネスパーソン
望遠鏡を覗くビジネスパーソン

リスキリングとは?

リスキリングとは、新しい業務や職業に就くために、今の仕事とは異なる領域や職種のスキルを身に付けることです。『自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング』(後藤 宗明著、/日本能率協会マネジメントセンター 、2022/9/30)では、「リスキリングとは、新しいことを学び、新しいスキルを身に付け実践し、そして新しい業務や職業に就くこと」と定義されています。

リスキリングについて詳しくはこちら

リスキリングが注目されている経緯・背景

リスキリングが世界的に大きな注目を浴びたきっかけは、2020年のダボス会議(世界経済フォーラムの年次総会)にて『リスキリング革命(Reskilling Revolution)』が発表されたことです。同会議では、「第4次産業革命に対応した新たなスキルを獲得するために、2030年までに10億人をリスキリングする」という目標が掲げられました。

第4次産業革命とは、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、ビッグデータの活用によりもたらされる技術革新のことです。これによって従来人間が行っていた労働の多くがAIやロボットに代替されるとともに、それ以上に多くの新しい仕事が生まれると予測されています。 このように人間の仕事をテクノロジーが代替していくことで、技術的失業が深刻化します。

だからこそ、新しいスキルや知識を獲得して成長領域に職種移行するリスキリングが世界的に注目されているのです。

2021年2月から経済産業省によって「デジタル時代の人材政策に関する検討会」が開かれ、日本でも、リスキリングについて言及され始めました。さらに、2022年10月3日に開かれた第210回臨時国会では、岸田内閣総理大臣が「個人のリスキリングに対する公的支援を五年間で一兆円のパッケージに拡充する」と発言しています。また、2024年10月1日に発足した石破内閣においても就任後初の所信表明演説でリスキリングについて触れ、「リスキリングをはじめとする人への投資を強化する」と述べました。

これまでは、東京都の「DXリスキリング助成金(中小企業人材スキルアップ支援事業)」や厚生労働省の「人材開発支援助成金」「事業展開等リスキリング支援コース」など、企業が主導するリスキリングに対しての支援が主に見られました。しかし、今後は個人のリスキリングの支援も強化されることで、よりリスキリングが浸透していくでしょう。

第4次産業革命について詳しくはこちら

パソコンで仕事をするビジネスパーソン
パソコンで仕事をするビジネスパーソン

リカレント教育とは?

リカレント教育とは「働く→学ぶ→働く→学ぶ」という就労と学びを交互に繰り返す学習の在り方です。総務省によると、「リカレント教育は、就職してからも、生涯にわたって教育と他の諸活動(労働,余暇など)を交互に行なうといった概念」(※1)とされています。

リカレント教育の具体的な在り方はさまざまです。就職後、仕事に活かすための知識やスキルを学ぼうと大学院で修士課程や博士課程に進んだり、MBAやロースクールなどの専門職大学院で学んだり、民間サービス資格を取得したりといった例が分かりやすいでしょう。

(※1)出典:情報通信白書(平成30年度版),総務省(最終確認日:2024年12月04日)

3つの類型とスキル別内訳

リカレント教育は、人生100年時代やSociety5.0の到来、第4次産業革命など、時代の変化への対応策として政府も注目しており、経済産業省、厚生労働省、文部科学省が連携して推進しています。

経済産業省『イノベーション創出のためのリカレント教育』によると、リカレント教育は、目的に応じ、下記の3つに分類されます。(※2)

  • 生活の糧を得るため
  • 更なる社会参画のため
  • 知的満足(文化・教養)のため
    厚生労働省、経済産業省、文部科学省の施策によるリカレント教育の3分類
    厚生労働省、経済産業省、文部科学省の施策によるリカレント教育の3分類

イノベーション創出のためのリカレント教育, 経済産業省を加工して作成

また、スキル別の内訳は下記のように整理されています。

スキル

内訳

ハイエンドスキル

博士号、専門分野でのプレゼンスが向上する資格、複数の専門性の取得

ミドルスキル

AI/IoT、プログラミング等、今後社会で求められる実践スキルの習得

教養・基礎スキル

業務の基本となる資格、業務以外での教養・知識の習得

リカレント教育のスキル別内訳
リカレント教育のスキル別内訳

イノベーション創出のためのリカレント教育, 経済産業省を加工して作成

(※2)出典:イノベーション創出のためのリカレント教育, 経済産業省(最終確認日:2024年12月04日)

リカレント教育が注目される経緯・背景

リカレント教育は、1969年5月にベルサイユで開かれた第6回ヨーロッパ文部大臣会議にて、オロフ・パルメ氏(スウェーデン元文部大臣)が、スウェーデンの新しい教育政策の方向性として言及したことが発端といわれています。その後、1973年にOECDが「リカレント教育一生涯学習のための戦略」という報告書を発表したことで、リカレント教育は国際的に広まりました。

一方、日本では、2017年11月に開かれた「人生100年時代構想会議」でリカレント教育の拡充が掲げられました。さらに、2024年6月21日に内閣府が発表した「経済財政運営と改革の基本方針2024」においても、企業や個人、教育機関におけるリカレント教育の取り組みの加速が言及されており、注目度が高まっています。(※3)

また、2016年に出版された、ロンドンビジネススクールの教授、リンダ・グラットン氏の著書『LIFE SHIFT(ライフシフト)ー100年時代の人生戦略』が世界的にヒットし、人生100年時代のなかで、個人自らの稼ぐ力を身に付けること、そのための学びを重視する考え方が広まったことも、リカレント教育の注目度が高まった背景です。

人生100年時代について詳しくはこちら

(※3)出典: 経済財政運営と改革の基本方針2024, 内閣府(最終確認日:2024年12月04日)

リスキリングやリカレント教育に似た言葉

リスキリングやリカレント教育に似た言葉として、学び直しや生涯学習が挙げられます。それぞれ、リスキリングやリカレント教育との違いについて解説します。

学び直しとの違い

学び直しは、リスキリングの和訳として使われがちですが、「自分の興味や関心のある分野について学び直すこと」と定義されるリカレント教育で使われる言葉です。そのため、リスキリングと学び直しの違いは、リスキリングとリカレント教育の違いと同様です。

学び直しについて詳しくはこちら

生涯学習との違い

リカレント教育は、生涯学習の1つであり、年齢を重ねても学び続ける点で共通しています。生涯学習の在り方はさまざまですが、リカレント教育は、興味や関心があることを教育機関で学ぶことと就労を交互に繰り返す学び方を指します。ともに目的は、人生を豊かにするために学ぶことです。

生涯学習について詳しくはこちら

イメージとしては、生涯にわたって学び続ける生涯学習という大きな考え方のなかに、リカレント教育やリスキリングという概念があると整理すると分かりやすいでしょう。

リスキリングとリカレント教育、生涯学習の違い
リスキリングとリカレント教育、生涯学習の違い

リスキリングやリカレント教育のメリット

ともに新しいことを学ぶという面では変わらないため、それぞれのメリットも共通している点が多くあります。

共通のメリットとして、スキルを身に付けることで、仕事の幅が広がりやすいことが挙げられます。特にリスキリングは新しい業務や職業に就くことを目的としていることもあり、このメリットが大きいでしょう。

収入増加を見込めるのもリスキリングやリカレント教育のメリットです。内閣府政策統括官による「リカレント教育による人的資本投資に関する分析」にて、リカレント教育の効果を「Off-JTをはじめとするリカレント教育は、収入増加の効果がある」(※4)と述べられています。また、「転職を伴う収入増加にも効果がある」(※4)との分析もあり、リカレント教育で得られるスキルは、需要が高く、自身の市場価値を高められるといえるでしょう。

(※4)出典:リカレント教育による人的資本投資に関する分析, 内閣府政策統括官(最終確認日:2024年12月04日)

社会的に注目されるリスキリングとリカレント教育

リスキリングやリカレント教育は、社会的に注目され、政府からも推進されています。実際に企業がeラーニングや研修を通じて社員(従業員)に対して行っている事例もあり、個人で取り組むものと合わせて、政府から支援されています。

企業や個人に対する政府からの支援内容を見ていきましょう。

経済産業省

経済産業省は、リカレント教育の推進に係る関係省庁連絡会議にて、以下の支援を拡充もしくは実施するとしました。

支援対象

施策

概要

個人

リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業

個人のキャリア相談から転職まで支援する仕組み(整備に民間事業者を経由して支援)

中小企業大学校における経営者・経営幹部リスキリング

中小企業大学校の経営者や経営幹部を対象に実践的な研修を提供

企業

第四次産業革命スキル習得講座認定制度

専門的で実践的な教育訓練の講座

 

デジタル人材育成プラットフォーム

デジタル人材育成のコンテンツ集約や提示を行い、スキルのデジタル証明が可能な情報基盤

文部科学省

文部科学省は、「産業界や社会のニーズに対応した実践的なプログラムの開発・拡充やリカレント教育の基盤整備」(※5)を推進するとして以下の施策を行っています。

支援対象

施策

概要

個人

リカレント教育エコシステム構築支援事業

人材育成ニーズを踏まえたリカレント教育のプログラムを開発・実施

地域ニーズに応える産学官連携を通じたリカレント教育プラットフォーム構築支援事業

地域においてリカレント教育のプラットフォームを構築

企業

専門職業人材の最新技能アップデートのための専修学校リカレント教育(リ・スキリング)推進事業

業界団体を通じて教育コンテンツの情報提供を

行う体制を作るモデルを構築

(※5)出典:リカレント教育の推進に関する文部科学省の取組について,文部科学省総合教育政策局生涯学習推進課(最終確認日:2024年12月04日)

厚生労働省

厚生労働省は、リスキリングやリカレント教育に取り組むに当たって、「デジタル分野等の成長分野の訓練機会の拡大と教育訓練を受講しやすい環境の整備を図る」(※6)として支援を実施・拡充しています。

支援対象

施策

概要

個人

教育訓練給付

スキルアップに取り組む個人への直接支援

教育訓練休暇給付金の創設

教育訓練のための休暇に対する給付金

教育訓練期間中の生活を支えるための融資制度の創設

教育訓練で必要となる費用の融資

企業

人材開発支援助成金の「人への投資促進コース」「事業展開等リスキリング支援コース」

労働者の自発的な教育訓練や新規事業の立ち上げなどに必要な教育訓練を支援する企業への支援

キャリア形成・リスキリング推進事業

キャリア形成やリスキリングを促すための相談支援事業

生産性向上人材育成支援センター

人材育成の相談、プランの提案、職業訓練の実施を支援する総合窓口

中小企業リスキリング支援事業

中小企業の人材育成に対する専門的な助言や指導による支援

団体等検定制度

幅広い職種における団体等検定制度の活用促進に向けた支援

(※6)出典:リカレント教育の推進に関する厚生労働省の取組について,厚生労働省(最終確認日:2024年12月04日)

対話をするビジネスパーソン
対話をするビジネスパーソン

学び直しで生き方、働き方の選択肢を広げよう

リスキリングとリカレント教育の違いを解説してきましたが、いずれも、大きな視点では「社会人の学習」です。学習し、新しいスキルや知識を習得したり、今持っているスキルをさらにレベルアップしたりすることはさまざまなメリットがあります。

人生100年時代、生涯現役という言葉があるように、人生で仕事に費やす時間は今後より一層長くなるでしょう。だからこそ、社会人になっても学び続け、働き方の選択肢や可能性を広げることは、生き方の選択肢や可能性を広げることに直結するといえます。そして、政府がリスキリングや学び直しを支援する補助金制度やプラットフォームを設けていたり、民間企業のサービスも生まれたりしています。

今回は、リスキリングとリカレント教育の違いを紹介しましたが、そういった動きを追いながら、自分に合った学習の方法を探してみてくださいね。

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この記事を監修した方

後藤 宗明

さん

一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事 チーフ・リスキリング・オフィサー / SkyHive Technologies 日本代表

早稲田大学政治経済学部卒業後、1995年に富士銀行(現みずほ銀行)入行。2002年、グローバル人材育成を行うスタートアップをNYにて起業。2011年、米国の社会起業家支援NPOアショカの日本法人設立に尽力。2021年、日本初のリスキリングに特化した非営利団体、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブを設立。日本全国にリスキリングの成果をもたらすべく、政府、自治体向けの政策提言および企業向けのリスキリング導入支援を行う。著書『自分のスキルをアップデートし続ける「リスキリング」』(日本能率協会マネジメントセンター)は「読者が選ぶビジネス書グランプリ2023」イノベーター部門賞を受賞。2023年9月に続編『新しいスキルで自分の未来を創る「リスキリング実践編」』を上梓。

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