2024/02/28
人生100年時代とは、平均寿命や健康寿命の延びにより、100歳まで生きるのが当たり前になる時代がくるという考えです。この記事では、人生100年時代において、私たちの働き方や生き方はどのように変化していくのか、社会でどのような考え方やスキルが必要になるのかについて解説します。
人生100年時代とは、「平均寿命の延びによって、近い将来100歳まで生きるのが当たり前になる時代がくる」という考えで、イギリスの人材論・組織論の世界的権威、リンダ・グラットン教授が提唱しました。この人生100年時代という言葉は、彼女の著書、『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著、池村千秋訳/東洋経済新報社、2016)がベストセラーになったことで世間に広く認知されるようになりました。
『ライフ・シフト』によると、これまでは人生を「教育(0~20歳前後)」「仕事(20~60歳前後)」「引退(60~80歳前後)」という単純な3つのステージで捉えていましたが、これからの人生100年時代では、「マルチステージ」というモデルに転換する必要があるといいます。マルチステージとは、仕事か引退か、仕事か教育かといった二者択一ではなく、生涯に複数のステージの平行・移行を重ねるという人生モデルです。
特に、日本は少子高齢化のなかで生産年齢人口を確保するべく定年が引き上げられているため、人生における働く時間が今より長くなることが予想されます。さらに、AIやロボットをはじめとしたテクノロジーの急速な発展によって、仕事の内容や求められるスキルも大きく変わっていくでしょう。このようなことを踏まえると、これから先、時代に合わせてスキルをアップデートしたり、新しいスキルを身に付けたりする取り組みがより一層重要になっていきます。そこで注目を集めているのが、「リスキリング」や「リカレント教育」です。
リスキリングやリカレント教育について、詳しく知りたいという方は、以下の記事をぜひ参考にしてみてください。
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そもそもなぜ人生100年時代が来るといえるのでしょうか?ここでは、人生100年時代が来るといわれる理由を、平均寿命と健康寿命の観点からご説明します。
人生100年時代が来るといわれる大きな理由は、平均寿命の延伸です。平均寿命とは、0歳における平均余命のことですが、テクノロジーや医学の発達によって、平均寿命が延びていることが明らかになっています。
内閣府の統計によると、2020年時点で日本人の平均寿命は男性81.56年、女性87.71年であり、前年の2019年度から男性は0.15年、女性は0.26年延びています。今後、男女とも平均寿命は延び、2065年には、男性84.95年、女性91.35年(死亡中位仮定)となり、女性は90年を超えると見込まれています。※1
また、リンダ・グラットンの著書『ライフ・シフト』で引用されている研究によると、2007年に日本で生まれた子どもについては、107歳まで生きる確率が50%もあるという研究結果もあります。※2 このようなデータから、人生100年時代の到来が予想されているのです。
※1 出典:令和4年版高齢社会白書(全体版)(内閣府)
※2 出典:「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略」(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著、池村千秋訳/東洋経済新報社、2016)
平均寿命と同様に、健康寿命も延びていくと予想されています。健康寿命とは、健康上の問題により日常生活が制限されることなく生きられる期間のことをいいます。内閣府の統計によると、2019年時点で日本人の健康寿命は、男性が72.68年、女性が75.38年となっており、それぞれ2010年と比べて約2年ほど延びています(2010年から2019年の伸び:男性2.26年、女性1.76年)。※3 平均寿命と比較しても、健康寿命の延びはより大きく、健康を維持して長生きする人が増えていることがわかります。
※3 出典:令和4年版高齢社会白書(全体版)(内閣府)
来たる人生100年時代を想定して、政府もアクションを起こしています。日本では2017年9月に、第1回人生100年時代構想会議が開催されました。この会議は人生100年時代を見据えた経済社会システムの創造のために、政策の全体構造を検討する会議として設置され、具体的には教育や高齢者の雇用制度などについて議論されています。
この会議の目指すところは、「高齢者から若者まで、全ての国民に活躍の場があり、全ての人が元気に活躍し続けられる、安心して暮らすことのできる社会をつくること」※4です。そのための基本構想として、人材への投資を掲げ、幼児教育無償化、高等教育無償化、大学変革、リカレント教育の推進、高齢者雇用の促進などを推進していくと公表しています。詳しく知りたいという方は、以下サイトをご覧ください。
※4 出典:人生100年時代構想会議 中間報告 平成29年12月(文部科学省)
人生100年時代では、お金と時間の考え方や人生の過ごし方などさまざまなことが変化しますが、その変化を理解するための前提として重要なのが、「働く期間が長くなる」「リスキリングの必要性が増す」という2つの変化です。詳しく見ていきましょう。
生きる時間が長くなるということは、その分お金も必要になります。蓄えを増やすには、所得のうち貯蓄にまわす割合を増やすか、長く働くかのいずれかです。貯蓄を増やすにしても、人生100年時代において60~65歳で引退するということは、現役中に残りの約40年分の生活をまかなえるだけの貯蓄をする必要があるということですが、なかなか難しいでしょう。つまり、寿命が延びることによって多くの人は働く期間を延ばさなければならないのです。
AIやロボットをはじめとしたテクノロジーの進化が加速しています。この先、これまであった職種の需要が落ち込んだり、新しい職種が登場したりと、必要とされる仕事の内容が変化していくことが予想されます。労働市場が大きく変化するということは、必要なスキルも大きく変化していく可能性があるということです。
寿命が短く、労働市場の変化も少ない時代であれば、若いときに身に付けたスキルや知識を磨くだけで引退まで活躍できたかもしれません。一方、人生100年時代の大きな変化のなかでビジネスパーソンとして長く活躍し続けるには、手持ちのスキルを磨くだけでなく、全く新しいスキルを1から身に付けたり、これまで従事してきた仕事とは異なる職種に転換したりといった必要性が高まります。このように、人生100年時代では、リスキリングの必要性が増すのです。
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ここまで、人生100年時代における2つの大きな変化について解説しました。それらの変化を受け、人々の価値観も変わっていきます。今回は、人生100年時代における価値観を、働き方にフォーカスして3つご紹介します。
これまでの3ステージモデル(教育→仕事→引退)では、定年退職後はこれまで築いた貯蓄や年金で余生を過ごすのが一般的でしたが、人生100年時代では、退職・引退のタイミングや在り方は、1人ひとりの状況や考え方によって決まります。前述したように、人生100年時代における人々の働き方は、複数のステージを同時に並行したり、移行するマルチステージモデルになります。たとえば、下記のようなケースが考えられます。
このように、定年まで仕事にコミットし、引退して老後を過ごすというような従来の3ステージ通りの働き方に当てはまらない人が増えていくでしょう。
人生100年時代では、人々の働き方がマルチステージモデルに転換することに伴い、パラレルキャリアが当たり前になっていくでしょう。マルチステージを生きるということは、本業だけでなく、複数のキャリアを平行しながら生きる可能性が高まりますが、これはまさにパラレルキャリアの考え方だからです。
パラレルキャリアとは、経営学者のピーター・ドラッカーが著書『明日を支配するもの(Management Challenges for the 21st Century)』で提唱した考え方で、本業をしながら第2、第3のキャリアを形成する働き方です。※5 第2、第3のキャリアの明確な定義はなく、ボランティア活動や社会貢献など、必ずしも収入を目的としないさまざまな活動も含みます。副業が収入を目的に本業とは異なる仕事をする働き方であるのに対し、パラレルキャリアは自己実現やスキルアップを目的として、本業と同じように取り組むことを指します。
パラレルキャリアの実践によるスキルの獲得や人的ネットワークの構築、価値観のアップデートなども、人生100年時代の働き方においては重要だといえるでしょう。
※5 出典:『Management Challenges for the 21st Century』( Peter F. Drucker著/Harper Business、2001)
ここまでも解説してきた通り、人生100年時代では、働き方がより多様になります。そのため、人生のステージが変化するタイミングや、その回数などが人それぞれ異なるでしょう。
加えて、今までは年齢に伴って次のステージに移行していくという考え方でしたが、人生100年時代では年齢とステージがイコールで結びつかなくなります。これまでは、大学生というと18歳~20代前半と予想できますが、人生100年時代ではそうはいきません。社会人であっても、一度仕事を離れ大学に入学し直したり、社会人をしながら学生をするというケースが今よりももっと一般的になっていくでしょう。
また、政府は高齢者の雇用も推進しています。会社を退職後、異なる職種や雇用形態で再び働き始めるといったキャリアも増えるでしょう。このように、人生100年時代では、年齢に囚われない働き方で活躍できる社会に変化していくことが期待できます。
ここまで、人生100年時代における働き方の変化をご紹介しました。では、人生100年時代を生きるうえで、大切なことは何でしょうか?今回は、人生100年時代で大切にするべきことを3つご紹介します。
まず、自分が持つスキルを見直すことが重要です。というのも、働く時間が長くなる人生100年時代では、スキルや知識を時代に合わせてアップデートし続ける必要があるからです。特に、昨今はAIやロボットをはじめとしたテクノロジーの進化が激しく、今持っているスキルや知識がこの先ずっと通用するとは限りません。だからこそ、定期的に自分のスキルや、今後必要になるスキルを見直すことが大切です。これから必要なスキルが何かについては、経済産業省が示す「人生100年時代の社会人基礎力」がヒントになるかもしれません。
社会人基礎力とは、経済産業省が2006年に提唱した、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」のことです。具体的には、12の構成要素からなる3つの能力のことです。
社会人基礎力は、人生100年時代に向けた変化を踏まえ、「人生100年時代の社会人基礎力」として2018年にアップデートされました。「人生100年時代の社会人基礎力」は、上記で紹介した3つの能力と12の能力要素に加えて、「学び」・「組み合わせ」・「目的」の3つの視点が追加されています。
社会人基礎力は、パソコンやスマートフォンにたとえるとOS(基盤)、業界や職種ごとに必要なスキルはアプリと捉えることができます。いくら最新のアプリ(スキル)をインストールしようとしても、対応できるOS(基盤)がなければ機能しないように、社会人基礎力は非常に重要です。人生100年時代では、こういった力をより一層高めていくことが大切です。
人生100年時代では、生きる時間が長くなる分貯蓄の重要性が高まりますが、蓄えるべきはお金だけではありません。資産には「有形資産」と「無形資産」の2種類がありますが、無形資産の重要性がより一層増します。
さらに、冒頭にご紹介した『ライフ・シフト』の著者グラットン教授によると、無形資産は3つに分類できるとされています。
有形資産は確かに重要ですが、お金を稼ぐことそれ自体を人生の目的にしている人は少ないでしょう。多くの人は、お金と交換にさまざまなモノを得たり、家族や友人とコトを体験をしたり、スキルや知識をもとに自己実現したりしていくことを幸福と捉えるでしょう。つまり、無形資産を築くことが、人生の幸福・豊かさにつながるといえます。たとえば、多様な友人のネットワークを持っていることは、キャリアの選択肢を広げることに役立つかもしれません。温かい家族がいることによる幸福感は、仕事で成果を出し続けていく活力になるかもしれません。人生100年時代では、これまで以上に、こうした無形資産と有形資産のバランスを取り、相乗効果を生み出すことが重要なのです。
ここまで、人生100年時代について、特に働き方にフォーカスして解説してきました。これから起きるであろうさまざまな変化を考えると、不安を感じる方もいるかもしれません。しかし、人生100年時代になると、画一的な働き方や生き方に縛られず、多様な選択肢のなかから自分なりのキャリアを築き、挑戦する機会が多くなるともいえます。人生100年時代をポジティブに捉え、自分のスキルを定期的に見直したり、必要なスキルを新しく身に付けたりしながら、主体的に人生をデザインし、理想の働き方を実現しましょう!
『PERSOL MIRAIZ』は、はたらくすべての人が利用できる無料のリスキリングサービスです。本来は高額なスキルの学習やキャリアカウンセリングを、誰でも気軽に始められます。
さん
一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事 チーフ・リスキリング・オフィサー / SkyHive Technologies 日本代表
早稲田大学政治経済学部卒業後、1995年に富士銀行(現みずほ銀行)入行。2002年、グローバル人材育成を行うスタートアップをNYにて起業。2011年、米国の社会起業家支援NPOアショカの日本法人設立に尽力。2021年、日本初のリスキリングに特化した非営利団体、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブを設立。日本全国にリスキリングの成果をもたらすべく、政府、自治体向けの政策提言および企業向けのリスキリング導入支援を行う。著書『自分のスキルをアップデートし続ける「リスキリング」』(日本能率協会マネジメントセンター)は「読者が選ぶビジネス書グランプリ2023」イノベーター部門賞を受賞。2023年9月に続編『新しいスキルで自分の未来を創る「リスキリング実践編」』を上梓。
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